うわぐすりのまえおき
〈勿体を付けている訳ではありません〉
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井戸釉薬の話しに入る前に、ぜひお聞かせしたいことがあります。そのくせ、釉薬の話しはどうまとめて良いのやら、混乱もしています。もつれた爺の頭を整理するためにも、どうか我慢してください。 |
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爺 の不可解なこと。それは、現代の陶芸技術に比して古作のそれは劣っている。決して難しいことなどするでなく、単純思考、単純作業の結果でも美的に仕上がっ ているは、ひとえに現代では手に入らない材質に恵まれていたせいだ。と、考えられている節があることです。また古作陶工の成形能力の高さは、彼等が無知無 学な輩ゆえの成果だと言わんばかりです。こうした背景には柳宗悦氏の民芸論が根強く生きているのかもしれません。しかし不勉強な爺は柳氏の著作を読んだこ とが無いので批評できません。 |
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と もかく、技術力は劣っているのに無垢なる魂の結果、すばらしい物を生み出したと思い込みたい気風があるようです。掘りっぱなしの土を水引きして、近くで産 出する風化長石に灰を混ぜて釉薬とし、原始的な窯で気分まかせに焼けば名品が生まれ出るという幻想が漂っていると思えます。爺とて「無作為の作為」という 心境にてロクロ引きしてみたいものだという願望はあります。禅でいう「三昧」の境地なのでしょう。それくらい禅精神を具現化するという理想型は日本人に染 みついているとも感じます。しかし禅は修行して得るものであり、生まれたままのウブな心とは異なるものです。ウブなる未熟を鍛えて鍛えて三昧に到達するも のと思っています。なんとなれば古作陶工の心も稽古によって鍛えられていたはずで、無知無学ゆえの無作為の作為ではなくなります。 |
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脱 線しました。古作陶工の精神に踏み入ることが題材ではありません。古いからイコール技術力が低いと思い込んでは、見るべきものが見えないのではないかと言 いたいのです。人は脳で見ます。ある時、家の前の空き地に立つ人を認識するのに時間が掛かったことを憶えています。人などいないと思い込んでいた爺の脳に は「いる人」が見えなかったのです。だから室町時代の人々は百鬼夜行を見てしまって、死に至ったかもしれません。 |
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現 代の陶芸知識を基にして井戸釉薬を眺めれば、井戸のカイラギ化の理由は釉薬起源か焼成起源かに分かれると思います。釉薬原因説に従うと、現代の材料では古 作のようなカイラギ化は困難だから「古作には今では手に入れられない(またはまだ再発見されていない)特別の材料があったに違いない」ということになりま す。焼成原因説に従うと「(現代材料でも可能なはずだが)焼成方法が現段階では確立できていない」ということになります。耐火度の高い土に施釉して、ある 温度域で急加熱すれば胎土が熱エネルギーを吸収する以前に釉薬だけが融け縮れるはずだという観測は成り立ちます。ただし爺は急加熱説は採りません。縮れは 表現できても井戸のカイラギと表情が異なるという経験をしているからです。だから爺は現代陶芸のコンセンサスを捨ててしまえと唱えています。 |
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高 麗茶碗に対して化粧土を口にすると、粉引、刷毛目をどなたも思い起こすはずです。しかし爺が「井戸にも化粧土が必要です」と言うと、眉唾物と捉える方がい るやもしれません。化粧土はその名の通り「化粧でなければ意味がない」だから「粉引&刷毛目意外に使ったらおかしい」との先入観が働く人もあるようです。 爺は井戸の化粧土は〈1〉胎土の吸水性を弱め〈2〉荒い胎土を隠し〈3〉釉薬との合成で釉ガラスを形成すると既述していますが、単純こそ古作技法と思い込 む方には受け入れられないようです。しかしながら爺に先駆けて意外な焼物で化粧土が使われていたという研究論文を知りました。ひとえに若い中国陶磁器研究 者の友人のおかげです。 |
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す らりとした美しい彼女に美術館で出会ったお話はブログに書きました。その彼女が幾度となく資料を送ってくださって、中国陶磁器の奥深さに感嘆しきりの爺で あります。その中の一通に「東京芸術大学美術学部紀要第36号/北方白瓷の誕生と化粧掛けの役割」(平成13年7月)と題された小論文があります。著者は 水上和則氏。現在(平成23年4月)専修大学講師をなさっている方で常滑の窯屋さんのお生まれとか。著書に「中国茶碗の考古学」「釉調合の基礎講座」他が あります。窯屋さんのご子息らしく、陶芸美術史だけでなく実際の陶磁器復元考古学をなさるというリアリティ溢れる研究家です。その水上氏は先の論文におい て、中国北方白瓷はすでに隋代末より白瓷に対する化粧掛けが行われていて、その目的は化粧であると同時に素地と釉とのバインダーの役目を果たしていたと述べておられます。また「中国全土の古窯を見ると、周辺窯にも白化粧を用いたものが多く、定窯の白瓷、耀州窯の青瓷に も白化粧がされていたことを考えると、水上さんの考察もたぶんに頷ける」と友人の研究者も書き添えてくださっています。爺より5年も前にすでに化粧掛けの 複合効果は発表されていたのです。もちろん中国の陶芸技法がそのまま高麗陶芸技法に直結すると断言はできませんが、影響を受けていないとする方が困難なは ずです。それは化粧土などに留まらず製作技法全般において影響を受けているはずと考える方が自然です。単純な技法で古作ができているとのノスタルジックな 思い込みなど役立たないことしきりです。それより先祖の英知あふれる挑戦に感激し、物を見る目を拡げさせてもらうべきです。それには常に先入観を捨てる自 意識を育てなくてはなりません。もちろん爺も。 |
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爺の出会った若き研究者は中国北方の磁州窯を研究題材にしていました。次回より井戸釉薬に話しを進めるつもりですが、磁州窯の技法(解明中ではありますが)は爺作井戸の孤立感をずいぶんと和らげてくれました。彼女に感謝です。 (2011/4/14) |
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