井戸はすべてカイラギだ
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井戸茶碗の特徴は皆様ご存じの通りです。とりわけ大井戸茶碗の特徴を基準にして「井戸茶碗」としてのくくりがなされているようです。おさらいすると、まず枇杷色に発色した釉ガラス、深く削り取られた腰から下の高台部にはお定まりの縮れた釉ガラスである梅花皮(カイラギ)が、その高台は竹節をなし、胴にはロクロ目が際立って、高台内中央にはカイラギの中にとんがった兜巾(トキン)が立ちます。中を覗くと見込みは深くまるで井戸の底を覗くよう。(見込みの深さゆえに「井戸」の名がついたという説まであるくらいです。)と、こんな様子です。書物の中には、これらに加えて井戸固有の小さな貫入を挙げて魚子(ななこ)貫入と呼ぶ人もいます。特にこの貫入の形に注目している文章にも出会います。 |
| では実際はどうかというと(浅学な爺の経験で恐縮でありますが)枇杷色というより、多くはくすんだ朽葉色をしています。グレーの中にくすんだピンク色を見るものもあります。固有のはずの色調はむしろバラバラです。しかしながら昔の茶人が「枇杷色」と呼んだ理由がわかるような雰囲気を、各々の碗が醸しだしているから不思議です。以下、カイラギが目立たないもの、ロクロ目が際立たない碗も。見込みがそれほど深くない碗にも出会います。見込みの深さと、裏側にあたる高台内中央の兜巾の高さとは反比例しているようです。それは作り手から見れば当たり前の結果です。見込みが外形より深く見える名碗では、仕上げ時に削り取るべき高台内の土が僅かな薄さしかないので、兜巾を立てるのが困難です。(こうした実技のことはあとで詳しく述べます。)そして最後に特徴的な貫入の件です。釉ガラスが薄いために消え入りそうなものからハッキリ自己主張しているものまで様々ですが、これはどの碗も共通して有しています。「はじめに」でご紹介した利休所持の香炉「此世」も、この特徴ある貫入を持っていて、きっちり「井戸」をしています。 |
| さて虫眼鏡で井戸茶碗の写真(印刷物)を覗いた爺がいたく納得したこと、それが上記の貫入のことでした。「そうだったのか、井戸全体がカイラギのグラデーションで出来ている」。爺にはそう見えたのです。これこそが井戸を井戸たるものにしている(井戸の質感を支えている)根っこではないか。井戸碗全体が縮れた釉ガラスで覆われていると爺は推測したのです。 |
| 上の写真は爺作の井戸茶碗を拡大撮影したものです。茶碗を覆っている釉ガラスが縮れているのがお解りいただけるでしょう。小さい縮れから大きい縮れまで、縮れのグラデーションをなしています。本当は爺が虫眼鏡で覗いた印刷物を併載して比較していただきたいのですが、著作権を犯せないのでご容赦ください。爺作井戸碗の仕組みが本歌の井戸茶碗のそれに近いとしたら(あくまで仮定の話しですが)井戸の特徴的な貫入と古来呼ばれてきたものは所謂「貫入」ではありません。縮れなのです。カイラギと同じものです。なぜなら施釉時にカイラギを伴わせて発生するものだからです。とは言うものの、これは今だからこそ言える話し。ともかく謎解きの第一歩はカイラギグラデーションと方向を定めた爺の冒険が始まりました。<2010/9/30> |
| 追記;印刷物(写真)を覗かれるときは、虫眼鏡(天眼鏡)にしてください。倍率の高いルーペを使ってしまうと、見えるのは印刷インクで刷られた(原則的に4色の)ドットばかりです。 |
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