井戸茶碗の謎解き 井戸にはカオリン 野口以織 以織窯

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井戸にはカオリン

ご質問にお応えして(現時点でお答えできる範囲です。)

20年前、友人の石彫家が造ってくれた写真の石臼は我が家になくてはならないものです。とりわけ井戸の土づくりには大活躍です。いま叩いているのはカオリンの原土です。風化しているので叩くのは楽です。これを篩にかけて井戸の胎土の一部にします。石臼やスタンパーは伝統的作業には欠かせない存在です。機械式のスタンパーを導入する以前、我が家ではすべて手作業で行っていました。写真のような石臼でなく、蕎麦の実を挽くタイプの石臼も使用しましたが、硬い長珪石を挽くとすぐ摩耗して手入れが難しくなりました。大の男が一日かけてやっと1キログラムの石粉を手に出来たものです。道具と機械では一長一短ありまして、土を叩くなら手作業を選ぶしかありません。手加減が大事だからです。写真のカオリン原土を叩いている目的は、単に細かな粉にしているわけではないのです。欲しいのは粗目なのです。

定説で古作の井戸に使われた土はカオリン土となっています。現地のことは疎い爺なので参考になるものを探しました。皆さんも読んでくださいな。ネット上で井戸研究者の論文が読めます。当時、九州女子大学人間文化学科の教授をなさっていた安部誠文先生の「井戸茶碗の探求」がそれです。現地で数万の陶片を詳査なさった結果は我々・実作者に貴重な示唆を与えてくれます。論文はこちらからどうぞ。ページの右隅にあるプレビュー画面をクリックするとPDFにて表示されます。

最新の研究成果によっても古作の井戸胎土はカオリン系と結論付けられているのがわかります。しかしながら、その土を手に入れられない我々であるのも事実です。韓国から個人輸入でカオリンを取り寄せている陶芸家もいるそうですが、イコール古作井戸のカオリンであると断言は出来ません。古作の井戸に使われたカオリンは特定出来ていません。たとえ特定できたにしろ入手出来ない我々は自身の工夫と努力で古作に近づかねばなりません。単なる再現ではありません。創造的再現といえます。と言えば聞こえは良いですが、不確定なままの表現であることは否めません。しかしそれ以外の選択は出来ません。爺の井戸の実状を言えば、胎土はカオリン系ですが、釉薬は阿部先生の結論とは違います。大げさに言えば、いままでの誰とも違います。江戸初期くらいまでの古作(すべてではないでしょうが)には、我々の知る陶磁器史とは別の埋もれた技術史があるような気がしてなりません。

脱線気味になりました。爺の井戸土に話しを戻します。現時点(2010年12月)での爺の井戸土は上の写真のカオリンともう一種のカオリンを混合しています。理由は釉薬との相性で選んだ結果です。より相性の良いカオリンに出会えば、すぐさま替えます。現在手に入るカオリンのほとんどは細かい粉体です。原土と呼べるものは一種か二種でしょう。写真のカオリンだって15年ほど前に「使わないかもしれないけど」「原土だからいいか」と仕入れていたものです。もうじき在庫が切れます。が、今のところ次の購入先が見つかりません。爺とて手間の掛かる原土を処理するより紙袋の糸をはずすだけで事が済めば嬉しいです。しかしカオリンは曲者なのです。カオリンは概して吸水性が高く、水を含むと膨張著しいのです。ということは乾燥に至る収縮が大きいことを意味します。で、所謂「乾燥切れ」を起こします。加えて焼成後の収縮率も甚だしく、例えば美濃の蛙目系粘土の倍も縮みます。焼成中の「山疵」を生じやすい材料なのです。こうした欠点も程度の問題で、古作の表情を願う時、必要な条件ともいえます。とはいえ材料店から届いたままのカオリンでは胎土としてはいささか不向きです。そこで粗目を混ぜて収縮を軽減する工夫がいります。それで爺は以前に仕入れたカオリン原土を叩いているわけです。では叩いたカオリン単味で良いのではと思われるかもしれません。ところが、このカオリンには粘りが一切無く、仮に可塑性土を加えてロクロ挽きしたところでカイラギに不満が出ます。カイラギにまあまあ満足するカオリンの方は原土が入手困難。(粉体しか手に入らないので)しかたなく叩いたカオリンと混合することになります。

もうひとつ、我々が通常入手出来るカオリンは質が良いという欠点があります。夾雑物が少ないのです。カオリン輸入の目的は間違っても爺の井戸研究のためではありません。爺が知る限りでも陶磁器、医薬品、化粧品の各業界で原材料として使われています。ですから夾雑物の混ざらない質の良いカオリンが求められます。古作の井戸にはそんなカオリンは不釣り合いです。鉄分を一番にその他諸々夾雑物がほどほど入っていた方が色も表情も良いのです。そこで爺は鉄分追加のためには中国黄土を混入しています。鉄分の追加だけなら酸化鉄でも理論上良いのでしょうが、カオリンは粘りが足りません。少しでも可塑性を増すために中国黄土を入れています。それに酸化鉄と黄土を比べたら分散性に勝る黄土に必然的に軍配が上がります。近頃の混入率は基本となる二種類の混合カオリンに対して外割りで1割くらいです。土づくり時は常に基本となるカオリン以外は混入量を変えます。焼き上がりの色、表情の画一性を避けたいからです。注意としては、鉄分の含有率だけで(焼成法が同一に近いとして)焼き上がりの色を推測出来ないことが挙げられます。鉄分を混ぜる土の色が白いからといって、A土とB土に同じ比率で鉄分を加えて、同じ窯の同じ場所で焼いても焼き上がりは違います。生の土の色が見た目で白くても、もともと含有している鉄の量が違うという場合もありますが、土の性質も重大要素です。カオリンは焼成中たくさん酸素を放出するせいか、呈色に関わる鉄の量が(日本の一般的粘土に比べて)多目に必要となります。

焼き上がりの色は焼成法に関わります。煩雑になるので焼成の記述は後回しにします。なので、井戸焼きの焼成法はここでは伝統的な酸化炎技法としておきます。井戸の呈色材は鉄分が中心ですが上記に執拗に記した夾雑物が関係します。複雑な色合いや表情には夾雑物が不可欠です。とりわけチタンは井戸の枇杷色を引き出すために重要です。(正確にテストしていませんが)井戸の色合いでピンクがかったものや紅がかったものは鉄分中心の色合いといえるでしょう。井戸の特徴と挙げられる枇杷色には胎土の鉄分量の半分量ほどのチタンが必要です。爺の井戸土は前述のように中国黄土にて鉄分を補っています。中国黄土中の鉄分含有量は不明です。サンプルの分析結果は参考になっても正確さは望めません。でも不正確だから面白いのです。結局、爺は井戸の基本カオリンに対して1割程度の中国黄土と数パーセントの酸化チタンを混入しています。黄土と酸化チタンの代わりに含鉄チタン鉱であるルチルを入れていたこともあります。

可塑性が少ないカオリンです。土づくりの後、最低ひと月ほどは寝かせたほうが良いでしょう。どうせ粘り少ないのだからと、かって爺は土づくりの翌日からロクロ挽きをしていました。「短気は損気」です。寝かしが浅いと口縁に土中の荒目が集まって来るようで、焼成後痛々しいです。(乾燥させずに)原土は湿ったまま小石を取り除いて使うことが、持ち味を引き出す最良の法と聞きます。かかる土にいつか出会いたいものです。(2010/12/20)

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